横浜市「寿町」のドヤ街

イエスさまは最高

3大ドヤ街の1つである寿町で、6年前から開拓を始めたカナン・キリスト教会−。信徒一人ひとりに、信仰は確実に根付いている。今回は、路傍伝道の様子を中心に伝える。

佐藤 敏(さとう さとし) 師 と 徐 蓮X (そ よんひ)師

9月23日午後1時、「寿労働センター」前に、約30人の日雇い労働者が集まった。そこで毎週木曜、カナン・キリスト教会(佐藤 牧師)が路傍伝道を行なっている。23日は祝日だったため、教会外から応援に駆けつけた若い男女2人が讃美を導いた。
集まった人々は、パイプハンガーに吊した大きな模造紙に目を向けていた。そこに、大きな字で歌詞が書いてある。第一曲目に歌った讃美は「いつくしみ深き」。讃美が始まると、遠巻きにしてその様子を眺める人々も出てきた。大きな声は出さないが、皆、讃美を口ずさんでいる。
少し遅れて、佐藤敏師がアコーディオンを抱えて笑顔で登場。簡素なドヤ(簡易宿泊所)が立ち並ぶ街に、アコーディオンの音色がよく合っている。
その演奏に合わせて、タンバリンを打ちならす一人の男性がいた。胸には十字架のネックレス。聞けば、佐藤師からもらった物だという。肥田耕一さんというその男性も、日雇いの仕事で暮らしているが、キリストを信じた今では喜び踊りながら讃美する者へと変えられた。
小さい頃、体が弱かった肥田さんは、かなりいじめられたという。学校でも職場でも、そして日雇い労働者になった後も、いじめられる人生は続いた。クリスチャンになる前には、両親が信仰していた創価学会に入っていたが、カナン・キリスト教会に来てからは伝道熱心なクリスチャンとなった。以前にも、川崎市にいたとき教会に行っていたが、それは礼拝のためではなく、衣食をもらうためだったという。しかし、同協会に来てからは、洗礼も受け、聖霊さまの導きに従うようにもなった。肥田さんは「伝道していきたいんです。そのためにも仕事をしたい」と言う。
その肥田さんが、23日の路傍伝道では証をした。「ハレルヤ。カナン・キリスト教会に来て8ヶ月が経ちましたが、今が一番楽しく、嬉しく、おいしく生きています。これからもイエスさまを絶対と信じて、素晴らしい人生を歩んでいきます。そして、イエスさまを伝えていきたいです。イエスさまは最高です。僕みたいな最低な生活から、楽しくてしょうがない生活へと変えてくれました。これからは、教会でも仕事でもいろいろなことをしていきたいです」。この肥田さんからの証に、一緒に路傍伝道に来た仲間からは拍手が起こった。
メッセージを行なったのは佐藤師。御言葉を書いた習字紙を取り出し、パイプハンガーに吊された模造紙の上に貼ると、皆と一緒に大きな声でその御言葉を読んだ。個所はマタイの福音書7章7節と11章28節。この日は、「私たちの人生は何なのか?」という題で、人生の目的や、罪と赦しについて語った。
路傍伝道の締めくくりとして歌った讃美「十字架に帰ろう」は、寿町のテーマソングとして歌っている曲だ。「帰る家も親もない
~。生まれた町もない~。ふるさとは空に消えた。おいらの旅だよ~。帰ろう十字架に、つくりぬしのもと~。船がみなとに休むように、十字架に帰ろう~」。演歌調のこの讃美を好む人が多いのか、歌声は一段と大きくなった。
そして帰る間際、一人ひとりにゆで卵一個が手渡された。

 

ショッキングな事件

「以前の路傍伝道ではうどんを出すことができました。それが今ではゆで卵一個に…。」佐藤師の妻であり牧師の徐師は、そう言って声を詰まらせた。
経済的な苦しさは、教会存続にも大きな影響を及ぼしている。現在、教会員数は約60人。しかし、信徒の中に日雇い労働者が多い同教会では、収入も乏しくならざるを得ない。その苦しさを、その日暮らしがやっとである信徒たちに話す訳にはいかなかった。だが、教会の家賃を払うことが難しくなってきているのが現状だ。
韓国人である徐師によって設立された同教会では、韓国の信徒に経済面で負うところが大きかった。ところが、その助け手たちが一斉に散らばる事件が昨年10月に発生。ある一人の韓国人男性信徒が、教会の目の前で刺し殺されてしまったのだ。「私たちの教会がよく食べ物などをあげているので、お金があるとでも思ったのでしょうか。どうして私たちの教会にこんなことが起きたのか…」と徐師は今でもショックを隠しきれない。
この事件が起きた後、60人以上いた韓国人信徒は半数に。教会で開いていた幼稚園も、園児がいなくなったため閉鎖された。
信徒が次々といなくなる中、徐師は「もう教会は続けられない。韓国へ帰ろう」と荷物をまとめて帰る準備をしていたという。当時、徐師と佐藤師はまだ結婚していなかった。
韓国へ帰る間近になって、徐師は佐藤師に帰国することを告げた。しかし、教会は徐師によって始められたもの、強力な働き手がいなくなっては主の働きも前進させることはできない。それを聞いて、佐藤師は一つの決断を徐師に告げた。「僕と結婚しましょう」―――。
互いに互いが必要であることに気づいた徐師は、この提案を受け、二人は今年3月に結婚。佐藤師の言葉を借りれば、「愛することを学ぶために、すなわち愛するために」した結婚だった。

 

信徒に根付いている信仰

9月23日、寿労働センター前での路傍伝道が終わると、夜7時から教会で「ゴスペルアワー」が開かれた。
「にぎやかな礼拝が好きだ」という佐藤師は、讃美の中でエレキギターやハーモニカ、バイオリン、トランペットなどを次々と取り出して演奏。それにつられて、ある一人の男性が教会の隅に置いてあったボンゴを叩き出した。集まったその他の人々も、両手を上げ、楽しそうに讃美を捧げていた。
集会の形式は、讃美、証、祈りが繰り返される。佐藤師は、参加者に対し積極的に証を勧める。この日も何人もの人が前に立ち、短い証をした。
「教会に来て八ヶ月。怒り、そねみ、ねたみといったマイナス面が段々と消えていった。人ともあまり比較しないようになった。これからもイエスさまと共にやっていきたい」。 「30代の頃、新宿の暴力団に。人身売買のようなことをして、あらゆる人を泣かせた。今、イエスさまの教えを聞いて、いかに悔い改めなければならないか、しみじみと感じている。イエスさまの教えを守っていれば、必ず幸せが来ることを知らされた。これからはどこまでもイエスさまの教えを守り、多くの兄弟を作っていきたい」。 「病気で五ヶ月間、教会に来ていなかった。でも、讃美と祈りは続けていた。『讃美せよ』と言いながら、いつも歩いている。周りからは頭がおかしいと思われているかもしれない。でも楽しい」。こういった証が次々と語られ、人々の中に確かに信仰が根付いているのが良くわかった。

 ◆

 寿町では、無許可のギャンブルが町の至る所で行われている。この不況の時代、仕事を見つけるのも容易なことではない。その空しさを紛らわすため酒を飲む。暴力事件も後を絶たない。
また、生活保護を受けられない人も二千人いると言われている。彼らは、市役所が配布する「ドヤ券(宿泊チケット)」や「パン券(買い物チケット)」をもらって、ようやく生き延びているという状況だ。
「(寿町での伝道は)祈りによる戦いですね。霊的戦いです。悪霊につかれた人もたくさんいます」と真剣な面持ちで佐藤師は語る。そんなカナン・キリスト教会では 毎朝四時半から早朝祈祷が行われている。
もうすぐすると、寒さの厳しい冬がやって来る。ホームレスの人々にとっては命がけの季節だ。そんな彼らを守ろうと、同教会では毎年冬になると、おにぎりと暖かいお茶を持って「愛のパトロール」を行なっている。
しかし、経済的に苦しいところを通っている同教会では今、他からの助けがどうしても必要だ。同教会が現在必要としているのは、ホームレスの人々の命を守るための冬用衣類や、米などの炊き出し用食料。「日本人は、自らの同胞がこのような状態にあることに目をつむっていて良いのでしょうか」と佐藤師は協力を切望している。

献品先・献金振り込み先

横浜カナンキリスト教会のホームページをご参照下さい。

 

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